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ホテルが付いた自然学校
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風の季節の記憶

加藤 春喜

一年とは、地球が太陽の周りを一回りする時間のこと。今回は、暦に記されている言葉の裏側にある物語のお話です。

この夏、台風5号が白川村を直撃しました。幸い、村内は一部道路で雨量規制による通行止めがあったくらいで、大きな被害はなかったようです。とはいえ、自然學校で予定していた2つのこどもキャンプは中止することになってしまいました。楽しみにしていらした皆様には、ご期待にそえることができず、申し訳ありませんでした。

 

台風の襲来は、むしろこれからが本番です。9月1日(閏年は8月31日)は、立春から数えて210日目にあたることから「二百十日」(にひゃくとおか)と呼ばれ、古来から風の災厄に見舞われる日ということで畏れられていたといわれています。また、同じように立春から数えて220日目の「二百二十日」(にひゃくはつか)や、旧暦の八月一日「八朔」(はっさく)も、「二百十日」とともに天候が荒れる農家の三大厄日とされています。白川郷のある飛騨のお隣、富山県の越中八尾の町では、毎年、9月1〜3日の3日間、まさに「二百十日」の頃に‘おわら風の盆’というお祭りが行われます。その起源は定かではないようですが、一説には風を鎮める祭礼だったのではともいわれています。

 

このように、古くから人々に畏れられている台風ですが、白川郷の森には、その襲来を心待ちにしている住人もいます。その一人がドロノキです。

 

 

ドロノキはヤナギの仲間で、図鑑によってはドロヤナギとも書かれています。ヤナギといえば、川原に生えているネコヤナギや、幽霊が傍らに佇んでいそうな枝垂れ柳を連想しますが、ドロノキはそれらとは似ても似つかない、樹高30m近くにまで成長する高木です。むしろ、ポプラの仲間といった方がイメージしやすいかもしれません。ここ白川村では、8月の中旬頃から白い綿毛に包まれたドロノキの種が、まるで季節外れに舞う雪のように、フワフワと谷の空を漂っています。それは、ちょっとした幻想的な光景です。

 

ヤナギの仲間は、裸地に真っ先に根をはることから、パイオニア(先駆)植物とも呼ばれます。綿毛に包まれた軽いドロノキの種は、風にのって親の木からより遠くへ移動することができる反面、栄養の蓄えが少ないことから種の寿命が短く、また、種皮がきわめて薄いので、わずかな水で発芽します。ドロノキは台風で河川が氾濫するこの時期に種をまくことで、大水の後にできる陽当たりの良い湿った裸地にいち早く根を張ることができるのです。

 

他方で、春に種をつけるヤナギの仲間もいます。バッコヤナギです。こちらは春の雪解け水であふれた川が、次第に水量を減らす頃に種を飛ばします。種をまく時期こそ違いますが、川の氾濫を利用している点はドロノキと同じです。

 

 

ドロノキとバッコヤナギの種が、それぞれ季節を違えることなく空を飛ぶ様子を見るにつけ、あたかも、森が春と秋の川の氾濫を記憶しているかのようにも見受けられます。私たちの先人もまた、そうした記憶を培ってきたことは古い暦からも垣間みることができます。失われた記憶を求めて、先人の暮らしを倣ってみるのも一興です。今年の8月28日は旧暦の七夕。天の川を上弦の月の舟が渡る様を、先人と同様に愛でてみてはいかがでしょうか。

 

 

トヨタ白川郷自然學校インタープリター 加藤春喜

 

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