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お茶の間ネイチャーガイド -森の穴 虫の穴編-

加藤 春喜

一寸の虫にも五分の魂

「森の穴」シリーズ第3弾は、木の小さな穴に注目してみましょう。

木に近づいてその表面をよく観察していると、小さな穴を見つけることができます。

 

これはキクイムシなどの虫が空けた痕です。

↓拡大↓

 

 

冬の暖房を薪ストーブに頼るわが家では、道をふさいでいる倒木や半分朽ちかけたような木を山から切り出し、薪にしています。

温かくなってきたこの頃では、わが家の薪棚のあちらこちらからカリカリと音が聞こえてくるようになりました。

オガクズのような粉が噴き出ている薪をよく見てみると、やはり小さな穴が開いています。

これらの穴の住人の多くは、木に穴を開けて天敵から隠れるとともに、その穴に菌を植えて増やし、それらを食べて暮らしています。

つまり、木の中でキノコを育てて暮らしているわけです。食うに困らないばかりか、安全な家も手に入るという、まさに一石二鳥の賢い暮らしです。

賢いだけに大量発生してしまうと、それはそれで困ったことに。キクイムシの仲間であるカシノナガキクイムシがもたらす菌には、彼らが食べる菌とは別にナラ菌と呼ばれるものがあり、これがミズナラなどの木を枯らしてしまうそうです。

白川郷では2005年からその被害が確認され、見る見るうちにナラの仲間の木が枯れていきました。

(画像_カシノナガキクイムシ)

 

(枯れた樹齢80年生のミズナラ)

 

木の中でずっと暮らしていたのでは、男女の出会いがありません。

オスは成虫になると新天地の木を探し出して穴を開け、フェロモンでメスを呼ぶそうです。これがオスまでも呼び集めてしまうらしく、周りに仲間がたくさんいるとマスアタックと呼ばれる集団穿孔を引き起こしてしまうのだそうです。

林野庁の統計によれば、岐阜県全体での被害は2014年にピークに達し、2017年に収束したようにみえます。しかし、今なお、東北をはじめ、日本の各地で被害が続いています。

地球温暖化との関連も疑われるナラ枯れですが、少なくとも、温暖な地域にいたカシノナガキクイムシが分布を北上させたわけではないことは、遺伝子の解析によって示されています。

 

自らの棲みかをも枯らしてしまう、一見、不必要にも思えるナラ菌を持ち歩いていることも、マスアタックも、見方を変えれば、樹液などの木の防御能力によってゆっくりと仲間が根絶やしされることのないよう、時には集団で抵抗する、彼らのサバイバル戦術と受け止めることもできます。

う~ん、自然は深い。

 

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